プロフィール
大崎 晴菜(オオサキ ハルナ)さん
・岩手県九戸村出身、岩手県立盛岡第一高等学校卒業
・2018年3月 弘前大学農学生命科学部生物科卒業
・2020年3月 弘前大学農学生命科学研究科 農学生命科学専攻修士課程修了
・2023年3月 岩手大学大学院連合 農学研究科・地域環境創成学専攻 博士後期課程修了
・2023年4月~日本学術振興会 特別研究員(PD)
弘前大学では、山尾 僚 准教授(現 京都大学生態学研究センター教授)の下で研究を行い、学部2年生までは、全学バレーボール部に参加。その後、岩手大学大学院連合農学研究科にて研究を続けられ、博士号(農学)を取得。
2022(令和4)年12月には、独創的かつ著者の将来性を伺わせるに足る論文を対象とした「弘前大学若手優秀論文賞」を受賞。2023(令和5)年3月には、「第13回日本学術振興会育志賞」(日本の将来を担う優秀な大学院生)18人の受賞者の一人に選ばれた。
現在は、日本学術振興会の特別研究員として研究職の第一歩を踏み出されている。
誰も知りえなかった発見を提供する魅力
Q.勤務先等の概要と、ご自身の現在の主な仕事内容を教えてください。
A.東京都立大学でポスドク研究員として、博士後期課程までの研究の発展となる研究に取り組んでいます。博士後期課程では、野外調査や栽培実験といった実証的アプローチによって植物と動物の相互作用に関する生態学研究を行いました。今はそれらのアプローチに、数理シミュレーションなども取り入れた理論的アプローチも加え、より発展的で包括的な研究を進めています。
Q.この職業を目指したのは、なぜですか。就職の経緯や理由を教えてください。
A.学部生の頃に、指導教員が楽しそうに自然に触れ、熱心に研究する姿に惹かれ、生態学に携わる研究者を志すようになりました。
足元にある身近な自然から学術的な問いを見出し、誰も知りえなかった発見を提供するプロセスがこの職業の魅力だと思っています。
新しい発見をした時の喜びを共感
Q.仕事をしていく上で、心掛けていることはありますか。また、楽しさややりがいを感じるのは、どんな時ですか。
A.心がけていること:時間の使い方が自由な仕事(はたらく時間が決まっていない、締切がない、など)なので、体たらくにならないように、長期的・短期的な計画を組み、自己管理することを心がけています。
楽しさややりがい:野外の自然や室内での栽培・飼育を通して昨日まで気づかなかった生物の生態に気づくことや、共同研究を通じて同じ興味を持った研究者と一緒に新しい発見をした時の喜びを共感できることを楽しいと感じます。自分が発見した現象や法則を論文を通して言語化し、他の研究者や一般の方に面白いと思ってもらえるようになったとき、やりがいを感じます。
Q.仕事における今後の抱負(やりたいこと)や、将来の展望を教えてください。
A.今は、3年の任期付きの研究員として修業中です。
一人で論文が書けるようになることが今の一番の目標です。
生涯の原風景は岩木山に沈む夕日
Q.弘前大学を志望した理由は何ですか。
A.生物の授業が好きだったこと、お世話になった中学・高校の先生方が弘前大学出身だったこと、が決め手となって弘前大学の農学生命科学部生物学科を志望しました。
Q.学生時代に印象に残っていることや、力になったことがあったら教えてください。(授業・制度・人・出来事、等)
A.授業:修士の頃に受けた、西野 敦雄先生の講義が心に残っています。受講人数が少なく、ほとんどマンツーマンでの講義でした。論文の書き方や研究との向き合い方など、言葉にしにくいけれど研究者を志すうえでとても大切なことを、西野先生の研究観を通して、時間をかけて伝えてくださいました。講義の延長として、サイエンスカフェを企画し、文化祭で一般の方へ向けた研究発表を行いました。協力してくださった西野先生には今でもとても感謝しています。
制度:大学院の授業料免除が二重のシステムになっていることに大変助けられました。大学院全体の免除制度(学則による大学院授業料免除)の対象にならなかった学生が対象となる制度(弘前大学大学院振興基金による授業料免除)で何度も救済してもらい、修士・博士の5年間はずっと授業料を免除していただきました。これが無ければ、学業は続けられませんでした。本当に感謝しています。
人:学部生から9年間在籍したおかげもあり、学部の先生方、事務の方、皆に顔を覚えていただいて、日常的にたくさん面倒を見ていただきました。困ったことがあれば親身になって相談に乗ってくださったり、手続きの難しい問題をうまく取り計らっていただいたり、何か賞をもらったら喜んでもらえたりと、学部に関わるたくさんの皆さまに育てていただいたなと感じています。感謝してもしきれません。
出来事:農学部棟からみた岩木山に沈む夕日はいつも美しく、生涯の原風景になりました。自然豊かで昔ながらの文化が残る弘前の町で、学べたことを誇りに思います。
Q.学生時代の研究の成果として数々の賞を受賞されていますが、受賞の一報を聞かれた時はどのようなお気持ちでしたか。
A.『育志賞』の受賞のお知らせをいただいた時は、とても驚きました。
博士課程の集大成として、大変光栄な賞をいただけたことで、今まで支えてくださった先生や研究室・大学・学会・家族へ恩返しができ、本当に嬉しかったです。
大学院進学以降、長年気にかけてくれていた埼玉に住む祖母が、泣いて喜んでくれたことは、今でも心に残っています。心配をかけないよう、早く一人前になろうと、改めて身が引き締まりました。
研究に打ち込んだ学生時代
Q.学生時代に現在の仕事に繋がるような活動をしましたか。また、特に青森県外での就職を希望する場合、学生時代にやっておいた方が良いことはありますか。
A.学部・修士・博士ととにかく、研究に打ち込みました。学会に出るチャンスがあれば積極的に参加し、論文もたくさん書いて出版しました。コロナ禍になってからは、同年代の他大学の人とオンラインでの勉強会を企画し、毎週1時間の研究発表会を3年間続けました。地方大にいると閉鎖的になってしまいがちなので、県外や国外との交流を積極的に行い、情報共有・発信に努めることは、客観性を保つうえで大切だと思います。
Q.就職に関する情報の入手や、インターンシップの活用は、どのようにしたらよいでしょうか。
A.研究職は特殊で、インターンシップなどの制度に取り組んでこなかったので、わからないです。自分の今の仕事につながったこととしては、指導教員や先輩に聞いてポスドク研究員の制度について勉強したり、生態学研究分野の学生や研究者が利用するメーリングリストに参加し、就職情報を知ったりしました。
自分が今までやってきたこと自信に思っていること
Q.弘前大学のような地方大学生が、青森県外での就職活動でアピールすべき点はありますか。
A.分野にもよると思いますが、私はあまり大学の名前は関係ないと思っています。地方にいることをハンデにもアドバンテージにも思わず、素直に自分が今までやってきたことや自信に思っていることを伝えました。
Q.青森県外での就職活動で苦労した点は何ですか。
A.所謂「就活」というものがなく、ポスドク研究員への申請書がすべて、だったのであまり青森県にいることを不利に感じる機会は少なかったです。学生時代の学会参加などで知り合いが増えたことが結果的に今の職につながった、と考えるのであれば、首都圏から遠いことは少し不便に感じました。民間の研究費に申請し、資金を工面して出張するなどして、なるべく自費にならないようにしていました。
Q.青森県外での生活について、負担や問題点はありますか。
A.岩手の実家から遠くなってしまったのは不便に感じます。家族にはなかなか帰れず申し訳なく感じます。
人込みは慣れず、息苦しくなってしまうので、車で買い物に行ったり、徒歩で出勤したりと、なるべく公共交通機関を使わなくて済む生活を心がけています。
Q.青森県外に就職して、良かったことはどのようなことでしょうか。
A.仕事柄、学会のために国内外問わず出張が多いのですが、大学外の人と交流しやすいので便利に感じます。また、野外調査のために外で作業することも多いのですが、温かい気候のせいか生物の多様性が高く、毎日、とても楽しいです。晴れが多く、雪が少ないことも研究に向いている環境だと思います。
在学生の皆さんへ
社会人になると、失敗は許されない場面が多くなります。大学生のうちは、失敗しても何とかなる素晴らしい環境があります。成功ばかりを追い求めるのではなく、自分の可能性を最大限に引き出すために、大いに冒険してください。
(2023年5月取材)